学校で「B紙にまとめて」「B紙を持ってきて」と言われて、何のことかすぐに分かった人もいれば、「B紙って何?」と思った人もいるのではないでしょうか。
B紙(びーし)とは、愛知県や岐阜県など東海地方を中心に、模造紙を指して使われてきた地域的な呼び方です。
地元では当たり前のように使っていても、県外では「B紙」と言っても通じないことがあります。
さらに気になるのが、「なぜ模造紙をB紙と呼ぶのか」という点です。
「B1サイズだからB紙なのでは?」と思われることもありますが、実は名前の由来は完全には確定していません。
この記事では、B紙の意味や使われる地域、「B紙」という名前の由来、全国各地で異なる模造紙の呼び方まで、資料をもとにわかりやすく解説します。
結論を先にまとめると、次のようになります。
- B紙は、一般に「模造紙」を指す地域的な呼び方
- 愛知・岐阜・三重など東海地方で使われてきた
- 愛知県だけで使われる言葉ではない
- 「B模造紙」の略という説と「B判」に由来する説がある
- 紙の専門機関による調査でも、名前の由来は完全には確定していない
- 模造紙には「大洋紙」「鳥の子用紙」など別の地域名称もある
B紙とは?意味は「模造紙」
B紙は「びーし」と読み、学校の発表や掲示物などに使われる大きな模造紙を指す言葉として使われています。
たとえば、学校で次のように言われることがあります。
- 「B紙に調べたことをまとめてください」
- 「発表用のB紙を用意してください」
- 「B紙に大きくタイトルを書いてください」
愛知県や岐阜県などで育った人には何の違和感もないかもしれません。
しかし、「B紙」は全国で共通して使われている名称ではありません。
| 呼び方 | 意味 |
|---|---|
| B紙(びーし) | 模造紙を指す地域的な呼び方 |
| 模造紙 | 全国的に比較的通じやすい呼び方 |
国立国会図書館の「レファレンス協同データベース」に掲載されている紙の博物館図書室の調査でも、B紙は模造紙の地域名称として取り上げられています。
参考:レファレンス協同データベース「模造紙の地域名称であるB紙及び大洋紙の言葉の由来」
B紙は方言なの?
「B紙って方言なの?」と疑問に思う人も多いでしょう。
一般には「愛知の方言」「東海地方の方言」などと紹介されることがあります。
ただ、より正確に表現するなら、模造紙を指す「地域語」や「地域特有の呼び名」と考えると分かりやすいでしょう。
方言というと、「じゃん」「だら」「りん」のような語尾や話し方をイメージしがちですが、地域によって物の名前が異なることもあります。
たとえば、同じものでも地域によって呼び方が違う言葉があります。
- 模造紙 → B紙・大洋紙・鳥の子用紙など
- 自転車 → ケッタなど
- 物を捨てる → ほかる・なげるなど
B紙も、こうした「地元では普通だと思っていたのに、ほかの地域では通じない言葉」の一つです。
愛知県にはこのほかにも地域独特の言葉が多く、三河地方では「じゃん・だら・りん」などが知られています。
愛知・三河地方の言葉については、こちらの記事でも詳しく紹介しています。
関連記事:三河弁とは?「じゃん・だら・りん」の意味と使い方|東三河・西三河の違いも解説
模造紙を「B紙」と呼ぶ地域はどこ?
B紙は「愛知県だけの言葉」と思われることもありますが、実際には愛知だけに限定されていません。
紙の博物館図書室が行った調査では、
「B紙」は岐阜・愛知・三重など東海地方で使われる名称
とされています。
つまり、
- 愛知県
- 岐阜県
- 三重県など
東海地方を中心に使われてきた地域名称と考えるのが適切です。
ただし、県内のすべての人が必ず「B紙」と呼ぶという意味ではありません。
方言や地域語は、市町村、学校、家庭、世代などによって使われ方が変わるためです。
愛知県では「B紙」が比較的なじみ深い
愛知県では、学校生活などを通して「模造紙=B紙」という呼び方になじんだ人も少なくありません。
特に興味深いのは、「B紙」という言葉を使っている本人が、それを地域特有の名称だと気づいていないケースがあることです。
「模造紙」と言われて初めて、B紙が全国共通の名称ではなかったと知ることもあります。
これは、方言や地域語によくある現象です。
愛知県内でも三河地方には「机をつる」「鍵をかう」「ほかる」など、地域外では意味が伝わりにくい表現があります。
こうした愛知の言葉について興味がある方は、三河弁の意味や東三河・西三河の違いをまとめた記事も参考にしてみてください。
岐阜県でも「B紙」が使われる
「B紙」は岐阜県でも使われてきた言葉です。
紙の博物館図書室の調査だけでなく、香川県立図書館が模造紙の地域名称について調べた資料でも、愛知県・岐阜県では「B紙」という呼び方があることが紹介されています。
参考:レファレンス協同データベース|香川県立図書館「模造紙をとりのこ紙というのはなぜか?」
三重県でも使われる?
紙の博物館図書室の調査では、三重県もB紙が使われる地域として挙げられています。
ただし、三重県内すべての地域・世代で同じように使われているとまではいえません。
そのため、
「B紙は愛知だけの方言」ではなく、「愛知・岐阜・三重など東海地方で使われてきた地域的な呼び方」
と理解するのがよいでしょう。
なぜ模造紙を「B紙」と呼ぶの?由来には複数の説がある
ここで気になるのが、「B紙」のBはいったい何を意味しているのかということです。
「B1サイズだからB紙なのでは?」と思う人もいるでしょう。
ところが、名前の由来については資料によって説明が分かれており、完全に確定しているわけではありません。
紙の博物館図書室が調査したレファレンス事例でも、質問に対する状態は「未解決」となっています。
その中で、主に次の2つの説が紹介されています。
説1:「B模造紙」を略してB紙になった
一つ目は、かつて存在した「B模造紙」という名称から「B紙」になったという説です。
紙の博物館図書室の資料によると、かつて模造紙には、仕上げの違いによって「A模造紙」と「B模造紙」と呼ばれるものがありました。
同館の別の調査では、当時の模造紙について、一般向けの艶のないものをB模造紙、艶付けされたものをA模造紙と呼んでいたことが紹介されています。
そこから、
B模造紙 → B紙
と短く呼ばれるようになったのではないか、という考え方です。
説2:紙の「B判」に由来する
もう一つは、紙のサイズを表すB判に由来するという説です。
紙の博物館図書室の調査では、B紙がB1判に近い大きさだったことから名称が付いたのではないか、という説も紹介されています。
さらに同資料には、方言研究の文献『方言の現在』をもとに、B紙は洋紙の判型を表すB判に由来すると考えられる、という情報も追記されています。
結局、どちらの説が正しいの?
現時点では、「B模造紙説」「B判説」のどちらか一方が決定的に正しいと断定するのは避けたほうがよいでしょう。
紙の博物館図書室では、所蔵資料の確認や関係者への聞き取りなどを行っていますが、名称の由来について明確な答えは得られなかったとしています。
そのため、
B紙という名称には、B模造紙から来たという説や、紙のB判に由来するという説があるものの、決定的な由来は確認されていない。
と理解するのが最も安全です。
「B紙はB1サイズだからそう呼ぶ」と単純に断定するのは正確ではありません。
そもそも「模造紙」は何を模造した紙なの?
「B紙」の由来を調べていると、もう一つ気になる言葉があります。
それが「模造紙」の「模造」とは何を模造したのかという疑問です。
こちらには興味深い歴史があります。
紙の博物館図書室の調査によると、明治初期、日本の大蔵省印刷局では三椏(みつまた)を使った「局紙」と呼ばれる紙が作られていました。
この局紙がヨーロッパに輸出されると評判となり、1898年にはオーストリアで、木材パルプを使って局紙を模した紙が作られました。
その紙が日本へ逆輸入され、さらに日本国内でも製造されるようになったものが「模造紙」の始まりとされています。
流れを簡単にすると、
- 日本で「局紙」が作られる
- ヨーロッパへ輸出される
- ヨーロッパで局紙を模した紙が作られる
- その紙が日本へ入ってくる
- 日本でも国産化され「模造紙」と呼ばれるようになる
という、少し不思議な経緯をたどっています。
参考:レファレンス協同データベース|紙の博物館図書室「模造紙の歴史・由来」
模造紙は地域によって呼び方が違う
模造紙の地域名称は「B紙」だけではありません。
日本各地には、同じような大きな紙を指すさまざまな呼び方があります。
| 地域 | 呼び方の例 |
|---|---|
| 愛知・岐阜・三重など東海地方 | B紙 |
| 新潟県 | 大洋紙 |
| 香川・愛媛 | 鳥の子用紙・鳥の子洋紙 |
| その他の地域 | 大判紙・広洋紙・広幅洋紙・雁皮などの名称例がある |
紙の博物館図書室の調査では、「B紙」「大洋紙」のほか、「大判紙」「鳥の子洋紙」「広洋紙」「広幅洋紙」「雁皮」などの地域名称が紹介されています。
また、香川県立図書館の調査では、香川・愛媛で「鳥の子用紙」という名称が使われる例が確認されています。
つまり、地元でずっと同じ名称を聞いて育つと、それが全国共通語だと思ってしまうことがあります。
B紙も、その典型的な例といえるでしょう。
※地域名称は県境できれいに切り替わるものではなく、同じ県内でも地域や年代によって呼び方が異なる場合があります。
「B紙ください」は県外で通じないことがある
東海地方では普通に伝わることがある「B紙」ですが、全国共通の名称ではありません。
そのため、旅行先や転勤先、県外の文房具店などで、
「B紙をください」
と言っても、何の紙なのか伝わらない可能性があります。
地域外で確実に伝えたい場合は、
- 模造紙
- 大きな白い模造紙
- 掲示物や発表に使う大きな紙
などと伝えるほうが分かりやすいでしょう。
特にネット通販では「B紙」ではなく「模造紙」という商品名で販売されているケースも多いため、商品を探すときも「模造紙」で検索したほうが見つけやすい場合があります。
B紙についてよくある疑問
B紙と模造紙は同じもの?
学校や日常会話で「B紙」と呼んでいる場合は、一般に模造紙を指しています。
ただし「B紙」は全国共通の商品規格名というより、東海地方などで使われてきた地域的な呼び方です。
B紙はB1サイズという意味?
「B紙=必ずB1サイズ」という意味ではありません。
B1判に近い大きさだったことを名称の由来とする説はありますが、B紙という名称自体の由来は確定していません。
実際に紙を購入するときは、「B紙」という呼び方だけでサイズを判断せず、商品の縦・横の寸法を確認するのがおすすめです。
B紙は愛知県だけの方言?
いいえ。
紙の博物館図書室の資料では、岐阜・愛知・三重など東海地方で使われる名称とされています。
そのため、「愛知県だけの方言」とするより、「東海地方で使われてきた地域名称」と考えるほうが正確です。
東京で「B紙」と言っても通じる?
通じる人もいるかもしれませんが、全国共通の呼び方ではないため、伝わらない可能性があります。
地域外では「模造紙」と言うほうが確実です。
模造紙にはB紙以外の方言もある?
あります。
代表的なものとして、新潟県の「大洋紙」、香川・愛媛の「鳥の子用紙」などがあります。
このほかにも「大判紙」「広洋紙」「広幅洋紙」「雁皮」など、地域によってさまざまな名称が確認されています。
B紙の名前の由来は結局わかっていないの?
紙の博物館図書室のレファレンス調査では、「B模造紙から来た説」と「B判から来た説」などが紹介されています。
一方、同館は資料調査や関係者への聞き取りを行っても明確な答えが得られなかったとしているため、現時点では由来を一つに断定しないほうが適切です。
まとめ|B紙は東海地方で使われる模造紙の地域名称
B紙(びーし)は、学校の掲示物や発表などで使われる模造紙を指す地域的な呼び方です。
ポイントをまとめます。
- B紙は一般に模造紙を指す
- 愛知・岐阜・三重など東海地方で使われてきた
- 愛知県だけの方言というわけではない
- より正確には「地域語」「地域名称」と考えると分かりやすい
- 由来には「B模造紙説」と「B判説」がある
- 紙の専門機関による調査でも由来は完全には確定していない
- 新潟の「大洋紙」など、模造紙にはほかにも地域独自の名称がある
「B紙」のように、地元では当たり前に使っていたため、全国共通語だと思っていた言葉は意外とたくさんあります。
愛知県の三河地方にも、「じゃん・だら・りん」をはじめ、「机をつる」「鍵をかう」「ほかる」など、地域外では意味が伝わりにくい言葉があります。
愛知県の言葉の地域差が気になる方は、こちらもあわせてご覧ください。
関連記事:三河弁とは?「じゃん・だら・りん」の意味と使い方|東三河・西三河の違いも解説