アカウントを作るときに「8文字以上のパスワードを設定してください」と表示されると、「せっかくなら面白くて覚えやすい8桁にしよう」と考えることがあります。
ただし、8桁の完成例をネットから選んでそのまま使うのはおすすめできません。名前や生年月日、有名な言葉、キャラクター名、単純な文字置換なども、見た目ほど予測しにくいとは限らないためです。
この記事では「8桁」を英数字や記号などを含む「8文字」の意味として扱い、8文字を求められたときにどう判断すればよいかを整理します。
先に結論をまとめると、利用するサービスが許すなら8文字で止めず、長く、サービスごとに異なるパスワードを設定し、パスワードマネージャーと多要素認証も活用するのが基本です。
「8桁」と表示されても8文字で止める必要はない
登録画面に「8文字以上」と書かれている場合、それは8文字ちょうどにするという意味ではありません。より長いパスワードを受け付けるのであれば、8文字で止める必要はありません。
米国国立標準技術研究所(NIST)が2025年に正式公開したSP 800-63B-4では、サービス提供側に対し、パスワードだけで認証する場合は最低15文字、パスワードを多要素認証の一部として使う場合でも最低8文字とする要件を示しています。
詳しい要件はNIST SP 800-63B-4公式文書で確認できます。
ここで注意したいのは、NISTが「8文字なら安全」と推奨しているわけではないことです。8文字は、多要素認証の一部として使用する場合にサービス提供側が許容できる最低値として示されています。
| サービスの条件 | 考え方 |
|---|---|
| 「8文字以上」で長い文字列も使える | 8文字で止めず、できるだけ長くしてサービスごとに異なるものを使う |
| 8文字までしか入力できない | 推測されにくいランダムな文字列を使い、使い回さず、多要素認証も利用する |
| 多要素認証を利用できる | パスワードだけに頼らず有効化する |
| 長い文字列を自分で管理するのが難しい | パスワードマネージャーの利用を検討する |
面白い8桁のパスワード例をそのまま使わないほうがよい理由
検索すると、動物名と数字を組み合わせたり、名前を逆から読んだり、アルファベットを数字や記号へ置き換えたりした例が見つかります。
しかし、公開されている完成例は、その時点で「自分だけが知っている秘密」ではありません。さらに、人が思いつきやすい変換方法は攻撃側にも想定される可能性があります。
たとえば、次のような考え方は避けたほうがよいでしょう。
- 自分や家族の名前+生まれた年
- 好きなキャラクターや作品名+数字
- 誕生日や記念日
- 単語を逆から並べるだけ
- 「aを@」「oを0」のような定番の置換だけを加える
- キーボード上で連続する文字列
- 同じパスワードの末尾だけサービスごとに変える
NISTも、利用者が文字種のルールに対応するときに予測可能な変更を行いやすいことを指摘しています。そのため現在は、単に「大文字・小文字・数字・記号を全部入れれば強い」と考えるより、十分な長さ、推測されにくさ、使い回さないことを重視する必要があります。
「面白さ」を残しながら安全性を下げない考え方
面白いパスワードを作りたい場合も、公開された完成例を選ぶ必要はありません。面白さは「答え」ではなく、自分が管理しやすくするための発想として使うのが安全です。
自分で覚える場合は、長いフレーズを考える
サービスが長いパスワードを受け付ける場合は、短い単語を複雑に加工するより、長いパスフレーズを考える方法があります。
ただし、有名な歌詞、ことわざ、映画のせりふ、SNSで公開しているプロフィール情報をそのまま使うのは避けます。
完成したパスワードを掲載すると、それ自体をコピーする人が出てしまうため、ここでは実例ではなく作り方だけを示します。
[無関係な言葉A]+[無関係な言葉B]+[無関係な言葉C]+必要に応じた区切り
このように、自分に関する情報から簡単に推測できない要素を使い、利用するサービスが許す範囲で十分な長さを確保します。
NISTも、複数の単語からなるパスフレーズは長いパスワードを作る方法の一つとして説明しています。
多数のアカウントはパスワードマネージャーで管理する
サービスごとに長く異なるパスワードを覚えるのは現実的ではありません。そのため、パスワードマネージャーでランダムなパスワードを生成・保存する方法があります。
NIST SP 800-63B-4でも、サービス側に対してパスワードマネージャーや自動入力機能を利用できるようにすることを求めています。
パスワードマネージャーを使う場合も、そのサービス自体を保護するための認証情報は慎重に管理し、利用できる多要素認証を有効にしておくとよいでしょう。
最も避けたいのはパスワードの使い回し
1つのパスワードを長く複雑にしても、複数のサービスで同じものを使っていると、一か所から認証情報が漏えいしたときに別のサービスまで狙われる可能性があります。
国家サイバー統括室(NCO)と情報処理推進機構(IPA)が示している「サイバーセキュリティ対策9か条」でも、パスワードを長く複雑にするとともに、他のサービスと使い回さないこと、多要素認証を利用することが基本対策として挙げられています。
詳しくは国家サイバー統括室の「サイバーセキュリティ対策9か条」で確認できます。
覚えやすさのために、同じ基本パスワードへ「GoogleならG」「AmazonならA」のような文字だけを付け加える方法もおすすめできません。元になる文字列が知られた場合、他サービスのパスワードまで推測されやすくなるためです。
面白いパスワードでも定期変更は必須ではない
以前は「パスワードは数か月ごとに変更する」と案内されることがありましたが、現在は理由のない定期変更を一律に行う考え方ではありません。
NIST SP 800-63B-4では、サービス提供側が利用者へ定期的なパスワード変更を要求しないよう定め、認証情報が侵害された証拠がある場合には変更を求めるとしています。
そのため、カレンダーに合わせて機械的に変更するより、次のような場合に速やかに対応することが重要です。
- 利用サービスからパスワード漏えい・不正アクセスの連絡があった
- 身に覚えのないログイン通知が届いた
- フィッシングサイトへパスワードを入力してしまった
- 他人へパスワードを見られたり送信したりした可能性がある
- 同じパスワードを使用していた別サービスから情報が漏えいした
使い回しをしていた場合は、問題が発生したサービスだけでなく、同じパスワードを使用している他のサービスも変更します。
IPAも不正ログイン対策として、長く複雑で使い回さないパスワードと多要素認証を案内しています。詳しくはIPAの不正ログイン対策に関する公式情報を確認してください。
多要素認証を利用できるなら有効にする
強いパスワードを設定しても、フィッシングなどによって本人から直接盗まれてしまえば、その文字列の長さだけでは防げない場合があります。
そこで利用したいのが多要素認証です。パスワード以外の認証要素を組み合わせることで、パスワードだけを知られた場合のリスクを減らせます。
特に、メール、SNS、オンラインショッピング、クラウドサービスなど、乗っ取られると他のアカウントにも影響しやすいサービスでは、提供されている多要素認証を確認しておくとよいでしょう。
絵文字をパスワードに使ってもいい?
「面白いパスワード」というテーマでは、絵文字を使いたくなることもあります。
NISTはサービス側がUnicode文字を受け付けることを推奨していますが、同時に、端末によって文字の扱いが異なることで認証に影響する可能性にも触れています。
そのため、絵文字を入れれば自動的に安全になるとは考えず、利用サービスや端末が確実に対応しているか確認してください。互換性が分からない場合は、絵文字に頼らないほうが管理しやすいでしょう。
8文字しか設定できないサービスではどうする?
古いサービスなどでは、パスワードの最大長が短く制限されている場合があります。
8文字しか設定できないなら、長くするという対策が取れません。その場合は、少なくとも次を意識します。
- 名前、生年月日、辞書にある定番語などを避ける
- 他のサービスとは完全に異なるパスワードにする
- 可能ならパスワードマネージャーでランダム生成する
- 多要素認証があれば利用する
- 重要な情報を扱うサービスなら、より安全な認証方法を提供しているか確認する
8文字しか使えないこと自体を、自分の工夫だけで完全に補えるとは考えないことが重要です。
面白い8桁を探すより、次の4点を優先しよう
面白さや覚えやすさを考えること自体が悪いわけではありません。しかし、アカウントを守るという目的では、次の順番を優先したほうが分かりやすくなります。
- 利用できる範囲で長くする
- サービスごとに別のパスワードを使う
- 必要ならパスワードマネージャーで生成・管理する
- 多要素認証を利用する
「8文字以上」と表示されていても、8文字ちょうどを目標にする必要はありません。また、ネット上に掲載された面白い完成例は、そのまま自分の秘密にはできません。
面白さを取り入れるなら、公開された文字列をコピーするのではなく、長さや使い回し防止という基本を守ったうえで、自分が無理なく管理できる方法を選びましょう。